すべて真夜中の恋人たち
恋愛とは、少し違うような気が。
人間愛、とも違うし、なんでしょう…
人と人との関わり、うん、人間関係。
そう言った方がしっくりくる。
同性、異性との人間関係が描かれている。
意図的に言いますが、描かれている。
物語はモノクロの文学というよりは、
フルカラーなんだけど、
色がグレースケール。
人間の不器用さ、卑怯さ、卑屈さ、
そのうえで器用に、傲慢に、奔放に生きる…
生きているということ。
それが詰め込まれている感じがしました。
わたしの光がわたしを照らして、
はじめて、わたしはわたしを、見る。
二重生活
誰かを尾行する
そう聞けば、躊躇いを覚えるのに、
文学的・哲学的尾行
と銘打ち、
その目的のない尾行を見てしまうと、
これはマズイ。
つい、やってみたくなる。
タカリ屋とかユスリ屋にもし自分がなったら、
やってしまうと思う。文学的・哲学的尾行。
そのくらい、人には人に言えない秘密が
たくさんあるものだ。
それがどんなに些細な秘密であろうと、
秘密に変わりはない。
そして、秘密を持っている時点で、
その生活には重なりが存在しているのだろう。
人は他人の秘密を求め、
自らにその秘密を投影して疑心暗鬼する。
アズミ・ハルコは行方不明
主人公が誰という視点ではなく、
様々な若者、若しくは若者たち、
という視点が主になる。
年代が近い人は共感しやすいので、
非常に読みやすい作品だと思う。
それぞれの悩み、鬱憤、怒り、戸惑い、…
そして逃げ出したくなる気持ち。
誰もが一度は、こういった逃亡衝動に駆られ、
そして諦めたことがあるのではないだろうか。
逃げることが最善でなくとも、
立ち向かうことが最悪な時はある。
クリーピー
映画の評価は分かれているようですが…
小説は面白く読めましたよ。
確かに少々突っ込みどころはあるかもしれませんが、隣人という近しい他人の怖さというのは、考えさせられるところでしょう。
疑心暗鬼にさせてくれる、登場人物の役割もなかなか。
生活の中に異物、不可解なものが入り込んでくる恐怖は、それが払拭される目処が立たないほど怖い。
日常の中の非日常に嫌悪と恐怖を感じる。
鈴木ごっこ
すいすい読めて、
あまりサスペンスだと思って読んでいなかったのだが、なるほど面白い構成で、油断していた分すっかり騙されていた。
映画化もされているようで、
今度見てみたいなと思った。
やはり他人のことは、わかったつもりでも
全くわかっていなかったりするものだ。
特に、上手く隠された悪意というのは、
気付きそうでなかなか気付けない。
幸せになろうと思えば努力する。
幸せを掴み取ろうとすれば他人を欺き、
蹴落とすのだ。
去年の冬、君と別れ
冒頭にネタバレを持ってくる類の作品かな?
と思いきや、かなり複雑な構成で、
何度かページを行ったり来たり、
久しぶりに頭を使う作品だった。
一人称の使い方に仕掛けがあり、
気付いた時にはもう遅いと言うわけでもない。
芸術性と狂気がひとつのキーワード、
かと思いきや、
終わってみるとただの復讐劇である。
しかしそこに至る過程で、
様々な狂気と、その中に潜む芸術性に、
触れざるを得ないところが好きだ。
あくまで過程の、結果が導き出されるための
プロセスとしてそれが存在する。
物語の本質、
核となるキーの部分かと思いきや、である。
そこに、そしてこの小説の全体構成こそが、
ひとつの狂気であり、芸術であると思う。
人が真に狂う時、狂人には見えないものだ。