ユリゴコロ
現在と過去、過去というかノートに記された内容をなぞって"今"と"あの時"を行き来する。
ノートの内容の真偽もあるが、一体誰が書いたもので、なぜそこにあったかを考えると、徐々にその全貌の輪郭が見えてくるわけだが、これといってややこしいトリックはないのに、ズブっと世界観に嵌らされてしまった。
謎解き的な部分や、想像力を掻き立ててこれからどうなる!?なんてドキドキすることはない。その必要が無い。主人公は概ね読み手の意思に沿って動く。まぁ、最後の方まではノートを読むだけなのだけれど。それで十分。
一見、狂気的な、産まれながらの殺人者であるノートの筆者の恐ろしい手記に恐怖する話かと思ったら、読後に感じたのは全く違ったもので、悲しく哀しく、ただ自らのユリゴコロに翻弄された1人の人間と、それを愛したアナタの、純愛の話なのだと私は感じて止まない。
個人的には終わり方もかなり好みだった。
というか先立って述べたように、主人公に限らずなかなかに読み手のして欲しい方、こうあって欲しい方にちゃんと物語が動くのだ。
万人が万人そうでないとしても、共感を得られる方が僅かでもいれば幸いである。